頼山陽賞
広島県教育委員会賞
広島市教育委員会賞
福山市教育委員会賞
熊野町教育委員会賞
特選
奨励賞
審査評
広島文教女子大学
名誉教授 日比野 貞勝 先生
第1回広島県公募書道展「頼山陽書道展」に応募され、ご入賞、ご入選されました皆様、おめでとうございます。応募されました作品数は113点でしたが、それぞれが平素の修練に、課題である頼山陽の詩・句をもとに創意と工夫を凝らしていて、力作ぞろいでありました。
審査は10月17日、ここで丸一日をかけて、ご案内の6名の委員が、それぞれの作品を5点満点で採点・集計し、さらに協議を重ねて選定しました。技・筆使いの上手さは無論ですが、力強さや情感の充実度、心境や境地の崇高さなども評価するというもので、時間と精力を要した審査会でした。
特に賞に選ばれた作品は、“心手合一”という言葉がありますが、技に心をのせる、心で技を活かす(詩興・詩情を託す)という、技と心が一になって書き上げられた一作一作で、見ごたえ十分な秀作ぞろいでありました。
「頼山陽賞」となった、藤原千穂さんの「山紫水明」は「山」の書き出しから最後の名前の「穂」まで、非の打ちどころのない書です。字面上の難しさを克服し、落ち着いて筆を伸びやかに運ぶところには頼山陽のいう「自然の景観の澄み切った美しさ」にも通じる美しさがあり見事です。
「広島県教育委員会賞」となった、大黒実優さんの「癸丑歳偶作」は、練り上げられた線質、優雅な波磔、安定した結構、整然とした布置章法で、これまた見事な秀作です。
「広島市教育委員会賞」となった、山根玲優さんの「忠孝」は、気力と筆の立ち方、筆運びが完璧です。真剣な姿勢で一心に書けており、余白にも見事な緊張感が漂った秀作です。
「福山市教育委員会賞」となった、土田瑞季さんの「不識庵 機山を撃つの図に題す」は刀を想像させる鋭利な線質、左に張り出した結構法。気骨と相俟った響きの高い秀作です。
「熊野町教育委員会賞」となった、礒川かえでさんの「真」は、筆の先に気と力とがピタッと宿り、真っ直ぐな気持ちで運べていること。また見事な組み立て方になっていること。大変に優れた作品といえます。
「特選」となった、上田一歩さんの作品は、強さと確かさの光る作品です。起筆の打ち込みと運腕にその技量の高さが見て取れます。落款にも工夫があり、好感の持てる秀作です。
同じく「特選」の藤原美穂さんの作品は、確かな用筆法で、一画一画が明快に書かれていて、すがすがしい出来ばえです。
同じく「特選」の吉田亜矢さんの作品は、よほど気構えが良いのでしょう。しっかりとした起筆と集中力のある組み立て方が見事です。
「奨励賞」となった、木原結里さん、香川優衣さん、光井亜希さん、田中凜子さん達の作品は、北魏の造像記や、光明皇后、王羲之、後漢の摩崖碑の筆法を活かした力作です。古典に学び、これを己の頭と手と心で作品化した秀作です。真摯な気概と姿勢も伝わってきます。
同じく「奨励賞」となった松本那由花さん、今田乃愛さん、東樹那さん、宍戸愛さん達の作品は、書き始めから書き終わりまで気脈を切らすことなく書けていること。またその運筆には強く美しく理想に向かっている姿勢が見て取れます。
同じく「奨励賞」となった上川友莉さん、河野紗代さん、平石こころさん、上西虹美さん、貞綱心花さん達の作品は、筆の持ち方や運び方、そして文字の組み立て方、全体のまとめ方、名前の書き方などとても良い出来ばえです。一心不乱の心意気にも好感が持てるところです。
その他、入選作にも優れたところが多々ありました。最初に“心手合一”ということを話しました。書は技も心も、そしてやがて人格も反映する素晴らしい文化です。芸術的にも人格的にも自分を磨き高める、そして心の世界を広げ、愉しめる文化です。頼山陽は詩や文章で一家を成した大先生ですが、書道でもナンバーワンの大家でした。数々の名作の背後には、驚くべき創意と工夫、吟味があります。皆さんも、頼山陽先生にならって、さらに研鑽を積んで、また来年度にも挑戦してください。
安田女子大学 文学部書道学科
教授 信廣 友江 先生
本展が他に類を見ないところは、頼山陽が生み出した詩句の揮毫を通して山陽の精神に触れ、山陽の深い理解に繋がる書展であることです。公募展作品を制作する場合、高い完成度を目指して、ともすれば技巧的な面に意識が向きやすいものです。
けれども、このたびの作品制作には、書作の向こうに頼山陽の姿がありました。審査を担当させていただいて、小学生・中学生・高校生の皆さんが、それぞれの立ち位置からそれぞれの課題・山陽のコトバに真摯に取り組み、完成度はもちろんそれ以上に技巧を超えたすがすがしい作品を書き上げていらっしゃることに感動いたしました。書にとって何より大切なものです。どうぞこれからも、「コトバを書く」「書を通して対象を考える」「自分の想いを表現する」という、主体的な書の学びを積み上げていってください。記念すべき第1回頼山陽書道展にて素晴らしい審査の機会をいただきましたことを心より感謝しています。
広島県教育委員会 義務教育指導課
指導主事 黒小 大介 先生
小学校部門は、どの作品も用紙全体との関係に注意しながら文字の大きさや配列を整えて書くこと、穂先の動きと点画のつながりを意識しながら書くことができていたように思います。その中でも特に優れていた作品というのは、やはり力強さと文字のバランスに長けていました。
中学校部門は、小学校部門とは違い、楷書だけでなく行書の作品も数多く出品されていましたが、行書の特徴である点画の方向及び止めや払いの形の変化を理解して書くことができているものが多くありました。応募した生徒達が伝統的な文字文化をしっかりと理解していることはとても頼もしく思えます。それらの中でも優れた作品からは、勢いや力強さ、運筆の滑らかさを感じることができました。
高校部門では、小・中学生にはない、芸術性の高さに感心させられました。どの作品も素晴らしいものばかりでありましたが、それらの中でもやはり優れていると感じた作品は、その字や言葉、文のもつ意味を理解したうえで、自分なりに解釈し、表現できていたものでした。
私自身も今回の審査をきっかけに、改めて、頼山陽について知るとともにその詩文の意味を学ぶよい機会をいただきました。多くの子供たちにも今回のような書道展を機に、広島にゆかりのある頼山陽について学び、その詩文にふれてほしいと願います。
広島県教育委員会 義務教育指導課
指導主事 木村 彰 先生
記念すべき第1回「頼山陽書道展」には、小、中、高校生から113点の応募があり、私を含め、6人の先生方と審査を行いました。審査に当たっては、単に基礎的な技法に習熟しているだけでなく、頼山陽の漢詩の内容や言葉の意味を自分なりに解釈し、一生懸命工夫して表現している作品を選考しました。
小学校部門は、「真」又は「忠孝」が課題でした。入賞した作品は、素直さが感じられる力強い線で表現している点が印象に残りました。
中学校部門は、自然の風景が清浄で美しいことを意味する「山紫水明」が課題でした。四字の中では、画数の多い「紫」と画数の少ない「水」の対比をバランスよく表すことが難しいと感じました。入賞した作品は、これらを見事に表現していると思います。
高校部門は、「『癸丑の歳、偶作』の四句など、漢詩が課題でした。入賞した作品は、創意工夫を凝らして字体や文字のつながりを考えて表現しており、それぞれの作品に個性が感じられました。
本書道展を通じて、今後ますます頼山陽の業績を知る機会や書の裾野が広がることを期待しています。
広島県立賀茂高等学校
教諭 中村 早苗 先生
当初応募点数が100点余りときき、少ないと思いましたが、その分じっくり何度も作品を鑑賞しながら審査することが出来ました。高校生はさすがに日頃から古典臨書の勉強をしているだけあって、古典を感じさせるものが多く、また作品全体のまとめ方も良かったです。中学生は長半紙に「山紫水明」の四字でしたが、堂々と書かれたものや丁寧に書かれたもの等様々でした。線の太さに変化をつけたり、文字の大きさも画数の少ない「山」と「水」は少し小さめにする等の工夫があるとさらに良くなったと思います。小学生の課題は「真」と「忠孝」でした。両方ともバランスをとるのが実は大変難しい課題です。しかしどれもよく書けており、背筋をピンと伸ばし腕をあげて一生懸命書いている姿が目に浮かぶようでした。高校生の書道展については一般的に臨書が中心で、とかく技法に走りがちですが、このような、書く言葉やその言葉の由来等について考え、思いをめぐらせて表現することの大切さを改めて思い起こさせていただき、すばらしいと思いました。ありがとうございました。第二回が大変楽しみです。